大阪電気通信大学

無線テレメータを用いた 脈波伝播時間の計測と血圧の推定

1. はじめに

厚生労働省は、病気の発生を防ぐ一次予防を積極的に推進するために健康増進法を制定し、生活習慣の改善及び健康づくりに必要な環境整備を進める健康日本 21 を推進している。また、日常の健康管理の重要性が認識され、健康
管理として血圧計測が重要である点が報告され、運動時を含む簡便で信頼性のある血圧測定、血圧の急変が検出可能な新しい機器開発が切望されている[1]。
本研究では、心電図と頚部光電脈波の生体信号を無線テレメータにより伝送して脈波伝播時間を計測し、運動時を含む長時間の血圧の推定を行った。

2. 脈波伝播時間による血圧の推定

脈波伝播速度(PWV:Pulse Wave Velocity)は心臓の拍動により脈波が伝わる速度であり、脈波が伝わる時間を脈波伝播時間(PTT:Pulse Transit Time)という。脈波は血圧の上昇や動脈硬化の進行により速く伝わるので、脈波伝播時間が短くなる。また、血圧が上昇すると血管の張力が増加し、血管弾性率が増加する。Mosens-Korteweg の式 1 より血管弾性率が増加すると脈波伝播速度も増加する。そのため血圧が上昇すれば脈波伝播速度も増加し脈波伝播時間は短くなる。
脈波伝播速度 Vpwv と最高血圧 P の関係は式 2 で表される。βは動脈硬化の度合い、ρは血液密度、L は血管長を表す。動脈硬化や血液密度は急激に変化することは少ないので、βとρを定数と考えると最高血圧 P は脈波伝播速度の 2 乗に比例する。脈波伝播速度 Vpwv と脈波伝播時間 PTTは逆数の関係にあるので、本研究では、式2に基づいて脈波伝播時間 PTT から最高血圧 P を推定する。

3. 無線と有線による脈波伝播時間と光電脈波の計測

心電図と光電脈波センサを一体化させたネックバンドデバイスを用いて心電図・光電脈波を計測し、無線(無線マイコンモジュール TWELITE DIP)と有線で伝送し、脈波伝播時間 PTT を計測した。心電図用電極は頸部裏と鎖骨中線に配置する。光電脈波は LED 搭載のフォトセンサ(525nm)を頸部に配置して計測する。計測データは 1kHz、16bit で収集する。心電図 R 波と加速度脈波(光電脈波の 2 階微分)のピーク点の時間差を脈波伝播時間 PTT とした(図 1)。脈波伝播時間 PTT とカフにより測定した血圧の関係を図 2に示す。相関係数は無線方式 0.77、有線で 0.87 であった。
無線テレメータと有線により脈波伝播時間を同時計測し、血圧を推定した結果を図 3 に示す。計測条件は 20 代男性 1 名、安静座位、エルゴメータで 1 分 30 秒間の運動を行い、運動直後から 10 分間の脈波伝播時間の計測を行い、血圧を推定した。無線テレメータにより推定した血圧と有線による血圧の相関係数は 0.94 であり、無線テレメータの妥当性を確認した。

4. 無線メータによる血圧の長時間計測

運動時を含む日常生活動作時での長時間血圧計測の実験を行う。被験者 1 名、安静状態での 30 分間の計測の後、10 分間はんだごてでの作業を行い、30 分間の安静後エルゴメータで 5 分間の運動を行う。計測時間は 2 時間である。血圧の推定の結果を図 4 に示す。脈波伝播時間は 10秒間隔で推定し、カフを用いた血圧測定は 10 分間隔で行った。安静時ならびにはんだ付け作業時の血圧は110mmHg程度であり、運動時に移行すると血圧が 170mmHg まで急変することが検出できた。
有線方式により推定した血圧とカフにより測定した血圧の平均誤差は 6.7mmHg であった。無線テレメータにより推定した血圧とカフによる血圧の平均誤差は 5.6mmHg であった。有線ならびに無線テレメータの平均誤差は IEEE規格で定められた基準内の差であった。

5. おわりに

本研究では無線テレメータを用いた心電図と光電脈波の同時計測を行い、脈波伝播時間を計測することにより長時間でのカフレス血圧推定を行った。無線と有線での計測を行い、誤差が許容範囲内であることを確認した。また 2時間の計測による有線方式により推定した血圧とカフにより測定した血圧の平均誤差は 6.7mmHg であった。無線テレメータにより推定した血圧とカフによる血圧の平均誤差は 5.6mmHg であった。今回の計測時間は無線テレメータおよび有線による心電図・光電脈波の信号を PC に入力するメモリ容量の制約により 2 時間とした。データ収集プログラムを改良することにより計測時間を長くすることが
できる。
以上の結果、無線テレメータにより行動を制限せず、カフレスで長時間の血圧推定ができることを示した。

参考文献

[1] 田村,山口:”カフレス血圧計の国際標準規格化動向-令和元年度戦略的国際標準化推進委員会報告”,生体医工学, 58 巻, 4・5 号, pp.168-172, 2020
[2] Hayashi K, Nagasawa S, Naruo Y, Okumura A: Mechanical properties of human cerebral arteries. Biorheology. 17 (3): 211-218, 1980.

作者プロフィール

藤田 真悠子

医療福祉工学科
生体情報計測研究室(担当:松村雅史)

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